研究概要 |
平成6年度〜平成7年度一般研究(C)「萌芽」共同研究の主要成果は以下のようなものである。 1.中国近代化の代表的イデオローグ胡適とってのアメリカ留学の意義 (1)J. B. Grieder"Hu Shi and the Chinese Renaissance",Min-Chi Chou"Hu Shi and Intellectual Choice in China"、耿雲志『胡適年譜』及び『胡適留学日誌』などの試料を総合的に用い、中国文化と隔絶した米国で工業化都市化に伴う核家族化と恋愛の市場原理化現象を目睹した胡適が留学中の恋愛体験をもとに、教育による女性の解放とそれに基づく国民国家建設という中国近代化構想を保持するに到る過程を明らかにした。(2)胡適の留学時代の恋人、E. クリフォード・ウイリアムズの生涯をイェール大学他現地の図書館など資料を発掘して明らかにした。未開拓分野での先駆的業績と言える。 2. 魯迅における日本留学の意義 胡適と対照的に漢字文化圏日本に留学した魯迅は、帰国後主として日本語を通じて世界と向き合った。世界の文学その他大量の翻訳を日本語から行ない。中国に紹介した。魯迅にとって日本留学は様々な階層の人々との交流による日本人の国民性理解及び文物を通しての文化理解とその上に立った自国中国の現状や国民性批判の役割を果たした。魯迅は日本を窓として世界を見、また自国を見る鏡ともしたと言える。本研究過程で、以下の2点を新たに発見した試料として公表した。(1)1935年1月1日付大阪朝日新聞掲載の魯迅が日本語で執筆したオリジナル記事。(2)弟周作人名義で出版された魯迅との共訳書『現代日本小説集』第二版表紙。この版の表紙にだけ「胡適校」の三文字が印刷されている。その意味ないし経過は今後の課題である。
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