研究概要 |
まず第一の成果は、世界的に一流の文献(Baker,1993,総ページ数318)を完訳したことである。現在印刷中であるが、この出版によって、日本においてまだ萌芽的なバイリンガリズム研究に貢献するところは大きいと確信している。この分野における最先端の知見を紹介することによって、学問分野として確立させ、今後の研究に方向性を与えることにつながろう。 第2に、前年度に引き続き、日本におけるコード・スイッチングの資料を収集することに努め、その語用論的な分析にたずさわった。それに加えて、カナダを訪れる機会があり、そこで生のデータを収集する機会に恵まれた。それによって、言語の切り替えという現象を狭く個人の問題に限るのではなく、社会的な仕組みとしてとらえるという視点が生まれてきた。そのようなより広い枠組みに関する考察を、論文(裏面の2番目の英文のもの)にまとめている。今後とも、このような広い枠組みで分析を行い、コードスイッチングにかかわる複雑な要因を解明したい。 第3に、文献研究に加えて学校視察(例えば横浜のDeutsche Schule)などを通して、バイリンガル教育や二言語の習得の実際を観察し、資料と情報を入手した。その中で特に、二言語の発達にかかわる知的、文化的な要因を探っていった。この問題は専門的には「しきい理論」、「共有基底言語能力」と結びついてくるが、世界的にもいまだに課題となっている。二言語の発達において、日本語との関連で転移はどこまで可能なのか、バイリンガルの体験をプラスのものとするためには認知的にどのレベルをクリヤーしておかなければならないのか、というような次の研究課題が浮かび上がってきた。
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