本年度は、研究の3年目の完成年度として、これまでの研究の総まとめを目ざした。 まず、その意味において一番大きな業績は、主要文献の翻訳の完成であろう。それは『バイリンガル教育と第二言語習得』(大修館書店)という形で刊行された。これまでこの分野には総合的な専門書が存在しなかったので、この訳本が日本におけるバイリンガリズム研究の確立に貢献するものと確信している。それは関連して、大学英語教育学会(JACET)の全国大会において、「バイリンガリズムはプラスかマイナスか」と題してシンポジウムを開催し、大きな反響をえた。 また、これまでに収集したコード・スイッチングの資料をもとに、言語の切り替えにおける社会的・心理的要因について要因分析をした。その結果、これまでのモノリンガルの尺度をそのまま当てはめるというやり方では不十分で、バイリンガル能力に対して新しいアプローチが必要なことが明らかになってきた。その新しいバイリンガル能力像について、JACET月例会で「バイリンガリズムと外国語教育」と題して発表した。外国語能力をただ伝達技能としてとらえるのではなく、“functional literacy"(機能的識学)の問題としてとらえるのでる。 さらに、調査資料収集の目的で、夏にウェールズにかけた。そこの複雑な社会的・歴史的な言語事情に接すると、バイリンガル社会、教育、個人という複雑な関連が浮かび上がってくる。バイリンガリズムの研究は緒についたばかりで、今後ますます研究を深め、発展させていきたい。
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