行為論・価値論(徳論を含む)の構造を、古典語評価的副詞の用法という、言語的側面から問題にすることがこの研究の特色であるが、問題になる副詞は基本的に、行為者と行為の両方に同時に言及するものであり、その詳細を明らかにすることによって、人の評価と行為の評価とを統一的に理解する(われわれにとっては)新しい視点を手に入れることができることが確認された。 平成7年度は、主としてアリストテレス以後の、ヘレニズム期に於ける行為論・価値論の構造を問題にした。アリストテレス以後、行為論・価値論の構造は大きく変質していったと考えられるが、このことは、評価的副詞の用法についての一定の了解が、この時代には見失われたことと無関係ではないと考えられる。他方で、翻訳の問題も含めて、古典語評価的副詞の用法に関するわれわれの理解には多くの問題のあることが明らかになった。そのことは、現代に生きるわれわれが古代ギリシアから受け継いだものが、直接的にはヘレニズム期に変質した行為論・価値論を源泉とするものであるということからくると考えられる。人文主義(ヒューマニズム)の主張もまた、われわれがヘレニズム期のギリシアから受け継いだものの一つであるが、(歴史的事実としての)その主張を、(この研究がその詳細を明らかにすることになる)われわれの行為論・価値論の視点から改めて見直すとき、その人間論・人格論には問題があることがはっきりした。この研究は、これ以外にも多くの点で、現代の行為論・価値論に新しい議論の材料を提供できることが確認された。
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