本研究は、EU/ヨーロッパ連合(旧EC/ヨーロッパ共同体)ないしその機関による立法活動を、個別国家主権を当然の前提として成立している西洋近代法従ってまた西洋近代刑法の理念・制度を乗り超えようとするものとして捉え、EC刑法(EU刑法)の現実とそれを巡る学問的議論の中から近代刑法理念を超えたものに立脚する新たな刑法理論学・現代国際刑法理論学確立への手掛りを見出そうと試みたものであり、そのような性格上、萌芽的研究として申告されている。 結論からいえば、本研究はやや時期尚早であったといわねばならないように思われる。EC諸条約は経済協力調整・統合を主眼としたものであり、その関係から、政府補助金に纏わる様々な規制の担保を含めた経済犯罪対策、環境犯罪対策、薬物規制・資金洗浄規制を含む組織犯罪対策等と徐々にEC刑事法の関与領域も拡大はされてきたものの、いわゆる刑事刑法領域は、建前上、依然として各主権国家の支配に委ねられているし、構成国の文化的多様性に鑑みるとそこでの統一的理念の確立は絶望的とも思われる。勿論、各本条の構成要件要素の意義の条約・指令等による事実的変更や形式的には刑罰でない懲罰的制裁の使用強制等によって、部分的には正にEC刑法と呼び得るものも成立はしている。しかしながら、そこでの問題は、それが構成国国民の民主的コントロールの及ぶヨーロッパ議会によっては行われて来なかったことである。その立法関与権限の強化は本年になって第一歩が踏み出され、相当評価されてもいるが、それは反面において、近代刑法理念への回帰とも評し得るのである。いずれにせよ、今後も上掲の関与領域における展開をフォローしつつ、本研究でし残した周辺地域刑法との関連分析を行い、機が熟したならばEC刑法(EU刑法)研究を再開し得べく準備しておきたいと考えている。
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