本年度は、秘密投票制の是非をめぐる資料となる文献を購入・収集した。複写を必要とする資料が東京に集中していたために、当初に予定していた以上に東京に資料収集に出かける機会が多くなったが、科研費のおかげで円滑に作業を進めることができた。 まだ、読み残している資料が大量にあるが、資料に読み取れる議論を、主に、保守党系・自由党系・急進派系に分類しながら整理を進めている。秘密投票制の是非をめぐる議論は、保守党と自由党という二大政党が真向から対立するという形をとるのではなく、彼等の多くが帰属する地主寡頭制と、振興商工業都市の中産階級を基盤とする急進派とが対立するという形をとっている。この対立図式は、第一次選挙法改正が行なわれた1830年代ばかりでなく、第二次選挙法改正が行なわれた1860年に至っても基本的に変わらないことを、今回の作業で確認しつつある。 ただし、それに加えて重要なことは、J・S・ミルを典型とするように、従来、急進的な立場にあった論者が、労働者階級の政治的抬頭を念頭に置いて、秘密投票制や選挙制度に対して、慎重な姿勢をとり始めたことである。これには、社会主義化への警戒というイデオロギー的要素ばかりでなく、大衆デモクラシーの基本的諸問題に対する関心の萌芽もうかがうことができる。ミルが高く評価したヘア式比例代表制も、そうした関心を含むものと言えよう。平成7年度は、とくにこの制度にかんする議論に注目しながら、研究の深化をはかりたい。
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