研究概要 |
1.研究目的 本研究の目的は,これまでわが国で研究されることに少なかった無組合企業における企業内の発言機構の実態と労働条件決定の特徴を,有組合企業との対比において分析することにある. 2.研究方法 本研究の方法的特徴は,既存の統計資料では情報が不十分な企業内の労使コミュニケーションのあり方や労働条件決定のプロセスに関して詳細な情報をアンケート調査を通じて収集するということである.なお,当初は,有価証券報告書提出会社に対して質問紙郵送法でアンケート調査を実施する予定であったが、郵送法では本研究で必要とする水準の情報が得られないと判断し,個別訪問質問紙留置法による首都圏企業の調査に切り替えた. 3.主たる分析結果 アンケート調査によって得られたデータの計量経済分析を通じて,以下のようなことが明らかになった。(1)企業ベースの労働組合組織率は29%である.今日,無組合企業のウェイトはきわめて高い.(2)従業員とのコミュニケーションのために,有組合企業では,団体交渉と労使協議をきわめて高い割合で実施している.(3)これに対して,無組合企業では,労使協議の実施率は24.6%とそれほど高くないが,従業員組織の組織率は63.6%とかなり高い.しかしながら,労使コミュニケーション上の機能評価では,労使協議や従業員組織よりも職場懇談会や経営方針発表会のほうがより有効とみなされている.(4)有組合企業では,ほとんどすべての労働条件事項や経営事項をめぐって,労働者の発言が促されている.しかしながら,発言の結果を離職率で捉えると,有組合企業と無組合企業との間には,離職率に有意差はない. 4.研究発表 以上のようなことを主内容とする論文(Tsuyoshi Tsuru "Intrafirm Communication and Wage Determination in Japanese Nonunion Firms"The Institute of Economic Research,Hitotsubashi University,Discussion Paper Series A-327)を執筆し,理論・計量経済学会1996年度大会(於大阪大学),および国際会議"Capitalism Japonais et Crise Contemporaine"(於フランス高等教育省)において口頭発表を行った.
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