研究概要 |
市場経済移行をめぐる諸問題についての経済理論,とくに経済体制論の観点からみた理論的考察を,関連重要文献の渉猟,それに研究会での報告や討論などを通じて深める作業をこれまでは専ら行ってきたが,現在それらを総括して論文にまとめる仕事にいま取り掛かっている。そして,その成果の一端は,今年の3月末に開催される日本学術会議・経済政策研究連絡委員会主催の第8回シンポジウム「市場創造と経済政策」において,「旧ソ連・東欧における市場創造の困難性をめぐって」と題して,報告する予定である。 その研究報告の概要を略述すると,旧ソ連・東欧諸国における市場経済移行の困難性を説明する事情としては,大別して3つの要因が指摘される。第一に,西側経済の長期不況曲面と遭遇したり,東アジア・中南米諸国などの目覚ましい興隆によって魅力度が相対的に低下したことなど客観情勢が不利にはたらいたことである。第二に,円滑な市場経済移行と市場経済実現についての,敢えて言えば幻想に囚われていたことである。これには市場経済実現に関する設計主義的発想の誤謬や先例のない歴史的大事業に対する認識の甘さや,それに過去の「負の遺産」の軽視などが含まれる。第三に,採用された戦略や実施された政策の不適切性ということである。その例としては,急進路線の失敗,また目標とすべき市場経済モデルの選択における誤りや産業政策の欠落などを指摘することができる。 このような理論的考察を基礎にして,これか来年度にかけて,市場経済構築に向けての再生産及び資金循環メカニズムの形成の現状と課題という本研究の主題の分析に入っていくことを予定している。
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