研究概要 |
旧ソ連・東欧諸国における市場経済移行が予想以上の,きわめて深刻な困難に直面していることはよく知られているが,初年度はまず市場経済移行を困難ならしめている諸要因について,(1)国際情勢の不利性,(2)市場経済移行という課題の重さと深さについての認識の不十分性,(3)戦略・政策の選択における不適切性,という三つの側面から理論的に総括する基礎的作業を行った。次いで,そのような難局を打開するための有力な手掛かりとして,市場経済の原点に立ち返り,市場経済にふわしい再生産・資金循環メカニズムを構築する必要があるという視点から,金融部門の健全化に向けての金融改革が基幹的重要性をもっていることを論じ,その際,銀行主導型金融システムと株式市場主導型金融システムとの選択においては,旧ソ連・東欧諸国の場合,時間的制約の厳しさから考えても,また市場経済後発国の歴史的経験に照らしても,前者のシステムの方がより適合的であり,それ故銀行部門の改革に重点が置かれるべきことを主張した。さらに,最終年度では,金融改革も含め,市場経済移行の諸施策を策定する際にしばしば陥りがちな急進路線対漸進路線という対比のさせ方は,市場経済にふさわしい循環メカニズムを定着させていくという本来の目的にとっては必ずしも有効ではなく,かえって有害となることを論じ,中欧3か国,つまりポーランド,チェコ,ハンガリーのみを取り上げてもそのような単純な二分法では据えきれないことを,実際の移行政策を具体的に跡づけながら確認した。
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