総務庁『全国消費実態調査』(昭和54年、昭和59年、平成元年)の個票を利用した研究成果の概要は以下のとおりである。 1.貯蓄フローは50歳代の後半でピークをうつ。ただし60際超になっても、かなり長期にわたって貯蓄をつづけている。世帯主の年齢階層別データをみるかぎり、貯蓄の取りくずしは高齢期においても全体として観察されない。 2.世帯主が就業中か非就業かで貯蓄フローに大差がある。貯蓄率の高低を決めているのは年齢階層の相違ではなく、むしろ所得水準の高低である。 3.1980年代において家計の資産増はいかなる要因によって生じたか。40歳未満の年齢階層では、相続・贈与が資産増の最大要因であり、ついでキャピタルゲイン、貯蓄フローの順になっていた。他方、中高年齢層の資産増は主としてキャピタルゲインによってもたらされていた。各コ-ホ-トの資産増をみると、貯蓄フローの積みましよりもキャピタルゲインによる分の方が大きかった。 個人ベースの1人あたり可処分所得(年間収入-税・社会保険料)を推計した結果によると、所得再分配は20〜59歳の年齢階層から5〜19歳および60歳以上の年齢階層に対して行われていた。60歳以上の高齢者は全体の平均を10〜20%ほど上回る所得を再分配後に享受している。他方、30〜44歳の年齢階層のそれは全体の平均を20%前後下回っており、再分配という面において最も冷遇されている。 5.最近の税制改革論議においては働き盛りの中年齢階層対策が1つの焦点となったが、30歳代については今のところ政策面からの配慮がほとんどなされていない。この点を再検討する必要性が大きいと思われる。
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