本研究の目的は、メインバンク制度という日本特有の産業構造のなかで、日本企業がいかなる会計政策を採用してきたかを明らかにすることである。いいかえる、日本企業は、主要な資金調達先であるメインバンクを意識した会計数字を創りだすための会計政策を採用してきたのか否かを明らかにするということである。以上の目的を達成するために、8つの仮説を提示し、検証した。仮説はメインバンクの企業に対するコミットメントの水準を視野に入れて設計された。ここでコミットメントの水準は、(1)融資額の順位、(2)特殊順位そして(3)役員派遣によって測定した。また、サンプルには繊維業界を選択した。その理由は、新素材等の技術開発に成功した企業とそうでない企業による業績のばらつきが大きいということである。そのため、メインバンクのコントロールを受けている企業とそうでない企業の会計行動の差を抽出しやすいと考えたからである。 さて、検証結果であるが、残念ながら提示した8つの仮説を支持する結果はほとんど得られなかった。しかしながら、メインバンクのコミットメントが深い企業の会計政策ほど、利益が多めに計算される方法で構成されていることが発見された。そこで、これをメインバンクによるコミットメント効果と呼ぶことにした。このコミットメント効果が存在すると仮定した場合、メインバンクによる企業のガバナンスには次の2つの評価を導くことができる。1つは、現経営陣に長期的な視野での経営を行う裁量を与えるということである。このような支援は、企業の状態をダイナミックに変革していく場合に不可欠といえよう。もう1つの見解は、現経営陣に対して早急な財務基盤の建て直しを迫らないという意味で、甘えの経営を許す可能性を秘めている。いずれにしても、このようなコミットメント効果の存在と分析は今後の課題である。
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