研究概要 |
個体群生態学において,そのモデルは微分方程式で表現されることが多い。そして,個体数(または密度)の時間的・空間的変化や生態系を構成する種の間の相互作用(競争・共生・寄生など)を調べるため,微分方程式の定性的理論が用いられる。2つの種の相互作用を表す生態方程式(捕食者・被食者モデル)のあるタイプは,変数変換を行えば,リエナ-ル方程式の形に書き直せることが知られている。今年度は,この事実と本研究で得てきたリエナ-ル方程式に関する結果を利用して,被食者に対する捕食者の応答関数がX^p/(a+X^p)(ただし,a,pは正の定数)で記述される(この場合,ホーリング(Holling)型応答関数と言う)捕食者・被食者モデルに周期アトラクターが唯一つ存在するための必要十分条件を得ることができた。周期軌道が存在して、その近傍に属する任意の点から出発する全解軌道が、時間とともに、その周期軌道に漸近するとき、この周期軌道はアトラクターと呼ばれる。捕食者・被食者モデルがホーリング型の応答関数をもつと仮定した立場で行われた生態学の実験において,統計的にデータを整理すると,pが2を越える値を取ることも報告されていた。しかし,従来の研究結果では,p=1とp=2の場合だけが数学的な意味で解決されているだけであった。研究代表者は,まず,p=3について考察し,代数多項式の根を詳しく調べることにより,周期アトラクターが存在するための必要条件を得た。しかし,パラメータpが大きくなれば,それに対応する代数多項式の根を調べることは困難になる。したがって,この証明方法には限界があったが,多くの解軌道図を描き,任意の自然数pに対しても成立するであろう必要十分条件を予想することができたことがその後の研究に役立った。実際,幾何学的な方法を用いて,その予想を完全に証明しただけでなく,pがほとんどの正の実数でも,成立することが判明した。
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