近年の天文学では、高度なディジタル技術を活用した観測手法により、精密な画像データが得られるようになった。このような大量のデータから、実際に天体で起こっている現象を解明するためには観測データの解析とともに、理論シミュレーション計算による詳細な検討が必要となる。この計算は、観測の精密化に伴って大規模なものとなり、高速・大容量のスーパーコンピュータ級の処理能力が必要となる。この研究では、複数台の小型計算機を有機的に活用する水平分散処理による理論シミュレーション計算遂行環境、及び異なる階層の計算機群をネットワーク接続することによる垂直分散処理環境の有効性を明らかにすることを目的とした。このために、分散処理環境を定量的に評価する必要があるが、これには計算機システムを分散処理環境の一般的な構成要素に分類し、各要素について分析する手法を取った。また小型計算機群による分散処理環境を整備し、定量的な評価を適用した。特に、平成7年度に国立天文台に導入されたベクトル・並列型スーパーコンピュータシステムにおける分散処理環境を調べ、効果的な理論天文学シミュレーション遂行のための利用者環境を明らかにした。さらに、分散処理環境における天文学専用計算機の有効性を明らかにするために、宇宙流体専用計算機の構造を詳しく調査し、それを利用した流体応用計算についての新しいアルゴリズムに関しての知見を得た。これらの研究の結果、ネットワーク上に構成される階層的な計算機群の効果的な活用には、システム全体を統一的に管理できるシステムソフトウェアの必要性が明らかとなった。これらの成果から、天文学計算のための計算機システムが備えるべきオペレーティングシステム及び利用者環境等を探ることが今後の課題である。
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