これまでの研究では、最も基本的な衝突系であるアルファー粒子(He^<2+>)と水素分子(H_2)との低エネルギー衝突において2電子捕獲反応が主要反応で、生成された(H_2)^<2+>イオンからクーロン解離したプロトン(H^+)ベア-の同時計測による運動エネルギー分布の測定結果から2電子捕獲反応における標的H_2から(H_<>)^<2+>イオン状態への電子遷移がフランクコンドン原理に従っているという重要な結論を得てきた。本研究では、He^<2+>と窒素分子(N^2)との低エネルギー衝突における1電子捕獲反応過程と2電子捕獲反応過程から生成されるN^+イオンの内、2電子捕獲反応による(N_2)^<2+>生成イオンからクーロン解離したN^+イオンペア-のみを同時計測で特定分離して(N_2)^<2+>イオンから生じるN^+イオンペア-のエネルギー分布を測定することに成功した。低エネルギーHe^<2+>-N_2衝突二電子捕獲過程で生成されるN^+イオンペア-の運動エネルギー分布では、従来の高エネルギー粒子衝突実験で観測されていた4eV近傍に極大を示す電子状態への電子遷移に加え7eV近傍に極大を示す電子状態への電子遷移が存在していることが明らかにされた。これらのクーロン解離エネルギー分布の結果は、2電子捕獲過程におけるN_2から(N_2)^<2+>状態への電子遷移においてフランクコンドン原理とスピン保存則および関係するイオン状態への等遷移確率を仮定したシミュレーションでおおむね再現されることも確認された。現在なお、この研究はこれまでの2価イオンと分子衝突から更に2電子捕獲反応後入射粒子と標的間にクーロン斥力が作用する多価イオンと分子衝突や多価イオン衝突による大きな分子の崩壊過程を調べる研究へと発展させるべく実験装置の改良や実験法の開発に着手している。
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