研究概要 |
活動的プレート境界では,プレートの側圧縮によって間隙水が絞り出され,海溝陸側斜面上に高濃度のメタンおよび硫化水素を含む冷水が漏出している.地質時代まで遡って冷水湧出域の海底環境を高い精度で復元するためには,現在冷水が湧出している海域で底生有孔虫とメタンおよび硫化水素との関係を解析することが最短の方法である.冷水に含有される特定成分に分布が影響される底生有孔虫種が明らかになれば,冷水湧出域の特異な堆積環境に適用可能な示相化石を確率できる.そこで,相模湾初島沖のシロウリガイ群落(北緯34°59.9'N,東経139° 13.6'E,水深1160m)内外において,Masuzawa et al.(1992)により表層から1cm毎に間隙水の化学成分が報告された底質試料中の底生有孔虫の鉛直分布と化学成分との関係を解析した.「しんかい2000」の第227および380航海で採集された30試料から底生有孔虫を抽出・同定し,Qモード因子分析法(主因子法,バリマックス変換)により分布を規制する環境因子を推定した。棄却水準(0.05)を満した46底生有孔虫種の22試料における固体数をデータマトリクスとし,全分散の81.3%に寄与する第2因子まで解釈し,以下の結論を得た.i)Bulimina striataおよびRutherfordoides cornutaの2種は,直上の底層水中の含有メタン濃度に関係する.ii)B.striataは間隙水中の高い硫化水素濃度を示す試料にも分布する.iii)B.striataとR.cornutaの樓み分けの原因は硫化水素ガスに対する耐忍性の差異と推察される.なお,堆積物表層のB.striataおよびR.cornutaの産出頻度の総数(y)と底層水のメタン濃度(x)との関係は,y=15.916・logx-17.347で近似される。
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