研究概要 |
本計画の中心課題であったトップロ-ディング式断熱型熱量計が完成した。テスト実験としての空の試料容器と標準物質である安息香酸の熱容量測定を行った。その結果,12-380Kの温度領域で,およそ0.1%の正確度の熱容量測定が可能であることが分かった。この温度範囲,正確度は,通常の断熱型熱量計と同程度であり,トップロ-ディングという大きな特長をつけ加えることができた点で,本研究の装置開発は大成功であったと言える。 4℃で粉砕非晶化したtri-O-methyl-β-cyclodextrin (TMCD)を,0℃で本装置にセットし,熱容量測定を行った。このような低温でのセッティングは,本装置の完成によって初めて可能になったものである。これまでの予想に反し,4℃で粉砕非晶化した試料は,より高温で粉砕非晶化した試料よりも小さい構造エンタルピーをもつことが分かった。このことから,分子性結晶の粉砕非晶化過程,構造エンタルピー獲得過程には,単に粉砕温度,時間のみならず,結晶(および生成した非晶質固体)の機械的性質(例えば可塑性)が重要であることが明らかになった。 1,3,5-Tri-α-naphthylbenzene (TNB)の粉砕非晶質と液体急冷ガラスの熱容量を極低温(5-20K)で精密測定した(これまでの測定は13K以上)。その結果,非晶性物質の特徴である低エネルギー励起の強度は,液体急冷試料より粉砕非晶化試料で大きいことが分かった。このことは,未解明の低エネルギー励起の起源が,非晶質固体の構造の乱れやひずみの程度に関係することを示唆している。 以上の様な結果を,昨年の7月に松山で行われた国際会議(12th International Conference on the Chemistry of the Organic Solid State)で発表した。本年3月31日から金沢で行われる第51回物理学会年会でも発表予定である。
|