研究概要 |
我々は,分子内電子移動を制御することにより分子レベルで外部信号に対して論理判断の動作をすることが可能な分子システムの構築を目指して研究を進めた。本研究で得られた結果は以下の2点にまとめられる。 (1)光誘起電荷分離を行うことが可能な錯体系の構築:ピリジルベンズイミダゾールのイミノ部分に側鎖を導入してジイミド(DI)と結合させたRu(II)-DI-Os(III)二核錯体において段階的な電子移動が起こり、電荷分離状態がマイクロ秒のオーダーで生成することが明らかになった。 (2)プロトンに応答する錯体系の構築:プロトン解離が可能なピリジルベンズイミダゾールを架橋配位子とする非対称二核および四核錯体において光およびプロトン化反応に応答してスイッチングを起こせるルテニウム錯体を合成した。Ru(II)-Rh(III)二核錯体においては、プロトン解離がRhサイトから起こり、このときには蛍光が見られるがRhサイトにプロトン化した状態では蛍光は消光される"蛍光スイッチ"現象が観測された。また、ピリジルベンズイミダゾールを架橋配位子を有する中心がルテニウムで周辺がオスミウムのデンドリマ-型ルテニウムオスミウム混合四核錯体において、周辺の3個のオスミウムイオンの酸化による3電子過程と中心のルテニウムイオンによる1電子酸化過程とがプロトン化の状態の違いにより相互変換することを見いだした。これを利用して、まず、脱プロトン化した状態では中心のルテニウムイオンを選択的に一電子酸化することが可能であり、この状態でプロトンを加えると、周辺のオスミウム(II)から中心のルテニウム(III)に電子移動が誘起されることが明らかになった。以上のように、金属イオンの酸化数の違いに基ずく酸解離定数の違いを利用してプロトンの動きをプロトンおよび電子の動きをコントロールすることが可能になった。
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