当初目的と指針に従い、伝導層間相互作用の増大を目指して、Ni(tdas)_2イオンを伝導性成分分子とした錯体の作成を試みた。[Ni((tdas)_2]_2^-を含む支持電解質を用いて、各種TTF誘導体を電解酸化した。BEDT-TTF等比較的弱いドナー分子は錯体を与えなかっが、比較的強いドナーである。OMTTFがこの金属-配位子イオンを成分とする初めての結晶性錯体を与えた。構造解析の結果、ドナーの二量体とNi(tdas)_2が三次元的に交互に充填されている事が解った。物性的には絶縁体であり、室温帯磁率等から、この錯体中で各成分は完全にイオン化した状態(Ni(tdas)_2は-2価)にあると結論された。但し、この結晶構造は、ジチオシュウ酸を配位子とした金属-配位子系を対イオンとしたTTF誘導体の塩と類似しており、その生成機構に興味がもたれる。 BEDT-TTF系錯体の範躊でより高いTcを実現させる為、陰イオン層中の空隙分布パターンを設計・制御し、新規κ-型塩を開拓する試みを行った。具体的には、NO_3^-を水分子で架橋した陰イオン層を持つ錯体の作成を試みた。しかし、得られた錯体は、θ-型塩に分類すべき構造を持つ、(BEDT-TTF)_2(NO_3)(H_2O)_2であり、測定全温度領域で半導体的挙動を示した。この塩は組成、結晶構造、等からBEDT-TTF系では希なMott型半導体であると推定される。これは、伝導層内でのドナー分子間相互作用を小さくし、状態密度を増大させ、Tcを向上させると言う従来の指針に照らすと興味ある塩である。本研究課題の第一目的である超伝導体開拓には成功していないが、物性的に興味ある材料を提供できたと考えられる。
|