研究概要 |
1,4-ジチインのb,e位にTTFがひとつづつ縮環した分子(BTDTと略称)の4個の水素が総て同じ置換基で置換された、対照置換BTDTの一般的合成方法を探索した。BTDTは、分厚い伝導層を形成すると期待され、中でも対称置換体は伝導層内での分子間相互作用が抑制され、高い臨界温度を持つ有機超伝導体を与える候補である。現在、最終目的物の生成確認は終了していないが、その合成を行う上での重要中間体であるbis(2-thioxo[1, 3]dithiolo)[4, 5-b: 4′, 5′-e][1, 4]dithine(ジチオン体)を得る再現性の良い経路を開拓した。即ち、4, 5-(vinylenedithiolo)-1, 3-dithiole-2-thione(この化合物の改良合成法も開拓した)のふたつのビニル水素を、強塩基性条件下-S-C(=S)-S-基に置換する事によりジチオン体を得た。更に、ジチオン体のチオカルポニル基を酸化して得たジケトン体と、4, 5-bis(methylthio)-1, 3-dithiole-2-thioneのカップリング反応を行い、対称置換BTDT誘導体と考えられる生成物を得た。現在、反応条件の最適化と精製方法の検討を行っている。 また、形式電荷が一定で大きさの異なる有機陰イオン、{RO-C[C(CN)_2]_2}^-(RO-TCA^-: R=直鎖アルキル基)を系統的に合成した。主にTTF誘導体を用いて、これらを対イオンとした導電性陽イオンラジカル塩の作成、それらの構造・物性の検討を行った。テトラチアテトラセン(TTT)を用いた場合、R=Me, Et, Pr, Buの塩を系統的に作成することが出来た。 金属的錯体を与える能力の大きなBEDO-TTFを用いて、このドナーが高酸化状態にあるヨウ素錯体を作成した。ここでは伝導体は得られなかったが、これらの塩の構造、ESR, 分光学的データを得た。一方、BEDO-TTF錯体は導電性高分子フィルムにおける導電性成分として用いられつつある。本研究課題の意外な展開として、ここで得たデータが、導電性フィルム中での成分分子の配向状態を解釈する上で有用であることが解って来た。
|