分子内に6つのピリジンをもつヘキサピリジン配位コンベア1を合成することに成功した。ヘキサピリジン1は分子内に6つのピリジンをもつ全く新しい配位子である。この配位子は2つのトリピリジン部位からなり、それぞれの部位で1つずつの金属イオンを結合することが期待される。2つの部位は、エチレンスペーサーによってつながれており、2つの鉄イオンがμ-オキソ-ジ-μ-アセタト架橋構造をとるのに丁度よい距離に配置されている。ヘキサピリジン配位子を用いることによって二核鉄錯体の合成に成功した。メタノール中に1、過塩素酸鉄(III)、酢酸ナトリウムを加えて室温で反応させ、鉄錯体2を赤褐色の微結晶として得た。これをジメチルホルムアミド(DMF)/2-プロパノールから再結晶することにより、単結晶を得た。単結晶X線構造解析の結果、鉄錯体2の構造が明らかになった。ヘキサピリジン配位子1は、鉄錯体2のμ-oxo-di-μ-acetatodiiron(III)コアをちょうどキャップするようにして2つの鉄イオンに配位しており、このコア構造を安定化している。このために2は極性溶液中でも安定であり、DMFのような極性の高い配位性の溶媒中でも錯体の分解は全くみられず、数ヵ月以上安定である。2が溶液中で常に二核構造を保っているということは、錯体触媒として用いる時に大変重要である。すなわち、基質を直接酸化する活性種が安定な二核構造を保つことによって、高い触媒回転数が期待される。錯体2をアセトニトリル/塩化メチレンに溶かし、シクロヘキサンとm-クロロ過安息香酸を加えて、アルゴン下、室温で撹拌するとシクロヘキサノールを主生成物として、シクロヘキサノン、シクロヘキサノンがさらに酸化されたラクトンなどが得られた。このときの触媒回転数は最高1000を超えており、ヘキサピリジン二核鉄錯体2が優れた酸素化触媒であることがわかった。また、最高速度は1分間に100turnoverとなり、大きな反応速度を示した。従って、これらの二核鉄錯体とm-CPBAとによってアルカンの高速・高効率水酸化触媒系が構築されたといえる。1、2、3級のアルカンに対する反応性をみるために、アダマンタンおよびメチルシクロヘキサンを基質として用いた。反応性は3級>2級>1級の順で高く、メチルシクロヘキサンではその比は150:15:1であり、アダマンタンでは3級>2級の比は12:1であった。
|