研究概要 |
メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)に見られる高速・高効率のアルカン水酸化触媒を再現する鉄錯体触媒の開発、及び、sMMOの酸素活性化機構の解明を目的として平成7年度の研究を行った。前者については、ヘキサピリジン配位子(L^1)の二核鉄錯体[Fe_2O(OAc)_2L^1](ClO_4)_2(1)を用いた結果を既に平成6年度の研究の中で報告した。しかし、1の触媒活性は天然酵素にはまだおよばず、十分な結果とは言えない。そこで、より高活性な触媒の開発が望まれた。sMMOの活性部位は多数のカルボキシル基が配位した二核鉄構造からなる。このカルボキシル基が活性発現に重要な働きを持つことが予測されているにもかかわらず、その化学的意義は明らかにされていない。そこで、カルボキシル基が触媒活性に与える影響を調べるために、配位子3,3-di(2-pyridyl)propanoic acid(HL^2)を新たに設計・合成した。HL^2を用いて二核鉄錯体[Fe_2O(OAc)_2(L^2)_2](2)を合成した。2を触媒としてm-クロロ過安息香酸(m-CPBA)を用いたシクロヘキサンの水酸化反応を行った。用いたm-CPBA当たりの収率は、1では73%であったが、2では88%まで向上した。いずれの場合もシクロヘキサノールが反応の主生成物であった。m-CPBA当たりのシクロヘキサノールの収率は1では41%であったが、2では63%であった。2が1に比べてより高選択的にアルカンをアルコールへと変換する事がわかった。シクロヘキサノールの生成速度を測定した。1では毎分100回の触媒回転数が観測されたが、2ではこれが200近くまで向上した。また、2では1で見られたInductuin decayが全く見られず、反応は約3分で完結した。反応速度の観点からも2がより優れた触媒であることがわかった。一方、sMMOの酸素活性化機構を解明するために1と過酸化水素との反応を行い、熱的に安定な二核鉄酸素錯体(3)の合成に成功した。3の生成は電子スペクトル、Massスペクトル等から確認された。従来の二核鉄酸素錯体では、その熱的安定性を上げるために鉄まわりに立体的にかさばった置換基を導入してきた。この方法では酸素錯体と基質との反応をも同時に阻害してしまうために基質酸素化触媒を行えない。これに対して3は従来のような立体障害を全く持たなくても、30℃付近で約70分という比較的長い半減期を示した。3が基質酸素化触媒能を持つ二核鉄酸素錯体として有望であることがわかった。これらの結果について現在論文を作成中である。
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