研究概要 |
分子内に6つのピリジンをもつヘキサピリジン配位子L^1を合成した。L^1の二核鉄錯体[Fe_2O(OAc)_2L^1](ClO_4)_2(1)を合成した。X線構造解析の結果、L^1は、1のμ-oxo-di-μ-acetatodiiron(III)コアをちょうどキャップするようにして2つの鉄イオンに配位しており、このコア構造を安定化していることがわかった。二核化配位子を用いてμ-oxo架橋二核鉄錯体が合成されたのは、これが初めてである。1はDMFのような極性の高い配位性の溶媒中でもきわめて安定であった。1をアセトニトリル/塩化メチレンに溶かし、シクロヘキサンとm-クロロ過安息香酸(m-CPBA)を加えて、アルゴン下、室温で撹拌するとシクロヘキサノールを主生成物として、シクロヘキサノン、シクロヘキサノンがさらに酸化されたラクトンなどが得られた。このときの触媒回転数は最高1000を超えており、1が優れた酸素化触媒であることがわかった。また、最高速度は1分間に100turnoverとなり、大きな反応速度を示した。従って、これらの二核鉄錯体とm-CPBAとによってアルカンの高速・高効率水酸化触媒系が構築されたといえる。しかし、1の触媒活性は天然酵素にはまだおよばず、十分な結果とは言えない。そこで、より高活性な触媒の開発が望まれた。sMMOの活性部位は多数のカルボキシル基が配位した二核鉄構造からなる。カルボキシル基の効果を考慮して、配位子3,3-di(2-pyridyl)propanoic acid(HL^2)を新たに設計・合成した。HL_2を用いて二核鉄錯体[Fe_2O(OAc)_2(L^2)_2](2)を合成した。2を触媒としてm-CPBAを用いたシクロヘキサンの水酸化反応を行った。用いたm-CPBA当たりの収率は、1では73%であったが、2では88%まで向上した。いずれの場合もシクロヘキサノールが反応の主生成物であった。m-CPBA当たりのシクロヘキサノールの収率は1では41%であったが、2では63%であった。2が1に比べてより高選択的にアルカンをアルコールへと変換する事がわかった。シクロヘキサノールの生成速度を測定した。1では毎分100回の触媒回転数が観測されたが、2ではこれが200近くまで向上した。また、2では1で見られたInductuin decayが全く見られず、反応は約3分で完結した。反応速度の観点からも2がより優れた触媒であることがわかった。 一方、sMMOの酸素活性化機構を解明するために1と過酸化水素との反応を行い、熱的に安定な二核鉄酸素錯体[Fe_2O(OAc)(O_2)L^1]X_3(3)の合成に成功した。3の生成は電子スペクトル、Massスペクトル等から確認された。従来の二核鉄酸素錯体では、その熱的安定性を上げるために鉄まわりに立体的にかさばった置換基を導入してきた。この方法では酸素錯体と基質との反応をも同時に阻害してしまうために基質酸素化触媒を行えない。これに対して3は立体障害を全く持たなくても、30℃付近で約70分という比較的長い半減期を示した。
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