現在知られている寄生植物の寄生誘導機構は、宿主からの誘引物質によって作動するタイプのものであるが、ネナシカズラの場合は、宿主からの誘引物質ではなく、光によって作動することを本研究ではまず明らかにした。ネナシカズラの幼植物をアクリル棒の近くに植え、近赤外光を照射すると、ネナシカズラはアクリル棒に巻き付き、アクリル棒に向かって寄生根を伸ばす。しかし、近赤外光のすぐ後に赤外光を照射すると巻き付きも寄生根の形成も起こらない。 ネナシカズラの寄生根誘導は、2枚のガラス板に先端部を挟み、上方から近赤外光を照射したり、アクリル製ケースの内側に先端部を医療用サージカルテープで貼り付け、近赤外光を照射することによって引き起こすことができる。このことは、ネナシカズラの寄生根形成が、光と接触刺激の2つの物理的刺激によって引き起こされることを示している。 大型スペクトルグラフを用いて、寄生根誘導に関わる光の作用スペクトルを調べたところ、740nm付近に大きなピークと420nm付近に小さなピークを持つスペクトルが得られた。一方、近赤外光による寄生根誘導を無効にする阻害光のスペクトルは、680nm付近に大きなピークと400nm付近に小さなピークを示した。これらの作用スペクトルの形は、フィトクロームのPfr型とPr型の吸収スペクトルの形と類似しており、フィトクロームが光受容体であることを示している。 フィトクロームが寄生植物の寄生を制御していることが、本研究によって始めて明らかにされた。
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