研究概要 |
高等植物におけるプロプラスチドから葉緑体への分化のプロセスは、葉緑体と核との相互作用によって制御されていると考えられ、葉緑体と核の両ゲノムにコードされた多数の葉緑体タンパク質の発現を伴って進行する。ノーザン法により、イネの葉の成長過程において葉緑体形成に関与する遺伝子の発現を比較したところ、葉緑体ゲノム遺伝子の発現に重要な役割を果たすと思われる葉緑体RNAポリメラーゼ遺伝子rpoB、および葉緑体リボゾーム遺伝子rps7、rps15が、他の葉緑体遺伝子(rpcS, rbCL, cab, psbA)に先立ち、幼葉の段階で特異的に発現していることが分かった。さらに、in situハイブリダイゼーションの結果から、rpoBは葉が抽出を開始する直前の発生ステージ(P4〜P5)にトランジエントな発現をすることが分かった。イネの温度感受性突然変異株virescent(v_1)は、植物を20℃で生育させるとプロプラスチドから葉緑体への分化を不可逆的に阻害する。このような温度で生育させたv_1株において、葉の成長過程における各遺伝子の発現パターンを比較したところ、幼葉段階でのrpoB_1rpsの発現は完全に抑えられ、かわって成熟葉の発生ステージ(P5〜P6)において大量の転写産物の蓄積が観察された。また、核コードの葉緑体タンパク質遺伝子の発現パターンはほとんど影響されなかったが、プラスチドにおける上記以外の葉緑体ゲノム遺伝子の発現は全盛的に著しく阻害された。これらの結果から、プラスチドにおける転写・翻訳系の確立が、葉緑体分化の最初のプロセスの1つであることが示され、葉の成長にともなう葉緑体分化のメカニズムを理解する上で重要な意味を持っていることが示唆された。
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