低分子量GTP結合タンパク質遺伝子(rep 1)を導入したタバコはいろいろな形態異常に加えて、野性株の6倍ものサイトカイニンを算出する。情報伝達系のどこかに異常を生じたもの、と思われ、それなら、タンパク質のリン酸化カスケードも影響を受けたはず、という仮説をたてた。そこで、保存領域に対応するDNAプライマーを作り、プロテインキナーゼ遺伝子をランダムにPCR増幅した。15種類ほど得られたDNA断片をプロープとして、タバコをはじめ、イネ、コムギ、トウモロコシなどのサイトカイニン応答をノーザン分析で調べたところ、コムギ由来の1クローンのmRNA量が明らかに増加していた。wpk4と名ずけたその全長鎖cDNAは1.9kbあり、528アミノ酸をコードする。N末端側にキナーゼドメインを持ち、酵母のSNF1グループのキナーゼとの相同性が認められた。C末端側のドメインは既知のタンパク質とは相同性のない未知の構造をしているが、両者の中間にプロリンに富んだ領域がある。その一部はQPLPPPPPSPという配列を持ち、プロトがん遺伝子などに見られるSH3ドメインの標的配列、XPXXPPPXXPを満足させる。WPK4と相互作用するタンパク質はこの領域に結合することが示唆された。大腸菌で発現させたWPK4タンパク質は、コムギ粗抽出液中の17.5KDのタンパク質をリン酸化した。標的である可能性がたかい。コムギ芽生えをサイトカイニン処理すると、wpk4の転写産物が増加する。他の植物ホルモンには反応しない。さらに詳しく検討したところ、wpk4は光と貧栄養ストレスによっても活性化され、mRNAを蓄積することが分かった。サイトカイニンの拮抗阻害剤によってその効果は打ち消される。したがって、光と栄養のシグナルはサイトカイニンによって仲介されることが示された。光と栄養という、植物の生活にもっとも影響を与える基本的な環境因子の情報が、サイトカイニンを通してひと続きの伝達系で制御されている可能性が、これらの結果から伺える。
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