本研究は、自然環境の弱酸性化がコンクリート構造物の耐久性や美観に及ぼす影響について検討を行うもので、本年度は、酸性雨の影響を中心に以下の実験的検討を試みた。 (1)暴露実験の概要について: 暴露期間として2年半を予定し、暴露場所は、資料調査から火山性酸性雨の影響を顕著に受けると予想された鹿児島県桜島内および、比較のための神奈川県鎌倉市内の2カ所を選んだ。実験では、(1)新設および既存構造物をそれぞれモデル化したコンクリートの中性化速度および鉄筋腐食速度に及ぼす酸性雨の影響、(2)コンクリートの表面汚れと酸性雨の関係および、(3)7種類の被覆材の劣化保護性能、等について検討を行うこととし、桜島で112本、鎌倉市で48本の供試体を暴露した。供試体の調査項目は、6カ月毎に外観観察および、鉄筋電位、コンクリートと塗膜の光沢度ならびに色差の測定である。なお、現在暴露6カ月を経過しているが、これまでのところは、塗膜の色差、光沢度に若干の変化が見られる程度である。 (2)促進実験の概要について: 酸性雨がコンクリートの中性化と鉄筋腐食に及ぼす影響ならびに、これらに対するコンクリート表面被覆材の抑制効果について検討を行うため、ここではまず、その促進試験方法を考案した。この方法は、上記桜島の酸性雨の化学組成をモデル化した酸性雨溶液中への供試体浸漬と乾燥を繰り返し、しかも乾燥中は高濃度の炭酸ガス槽内で中性化の促進も併せて行う方法である。この実験によって、これまでに、(1)ある程度中性化の進行しているコンクリートにおいて酸性雨の影響を受けやすいこと、(2)酸性雨は、コンクリートにひび割れなどの欠陥がある場合に、ひび割れ部の中性化と鉄筋腐食を促進させる可能性が高いこと、(3)適切な表面被覆材を用いることによって酸性雨の影響を抑制できること、等を確認した。
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