本研究では、環境の酸性化の代表的なものとして酸性雨問題を取り上げ、コンクリート構造物の耐久性や美観への影響とその対策について火山性酸性雨の影響を頻繁に受ける鹿児島県桜島における3年間の暴露実験および、本研究で独自に開発した室内促進実験により検討を行った。これらの実験結果を取りまとめて、以下のような結論を得た。 (1)酸性雨がコンクリート構造物の美観に及ぼす影響:(1)pH4を下回る火山性酸性雨が常時降り注ぐ環境ではコンクリートに黄ばみが生じる、(2)ただし、カビなどを原因とする黒ずみは、かえってpH5程度の通常の降雨環境よりも少ない等が、明らかとなった。 (2)酸性雨がコンクリート構造物の耐久性に及ぼす影響:(1)酸性雨がコンクリートの中性化に及ぼす影響は、その影響を受け始めた初期の段階では大きいが、長期的にはその影響は小さくなる、(2)ある程度中性化の生じた既存の構造物よりも新設の構造物の方が、酸性雨の影響が相対的に大きく現れる、(3)酸性雨の成分とコンクリートの成分との反応において中性化部と未中性化部とで生成物の形態が異なり、中性化部で生じた生成物はコンクリート組織をかえって緻密にさせる可能性がある、(4)酸性雨はひび割れ部の鉄筋腐食の進行を明らかに助長させる等が、明らかとなった。 (3)酸性雨の影響対策としての表面被覆の効果:(1)コンクリート表面への含浸剤の塗布は、鉄筋腐食抑制には効果があるものの、中性化抑制効果はない、(2)エポキシ樹脂系塗料によって被覆した場合には、酸性環境で塗膜の表面劣化は幾分早く進むものの、コンクリートの中性化の進行は十分に抑制できる、(5)ただし、塗膜にひび割れ追随性が乏し場合には、酸性雨環境ではひび割れ部の鉄筋腐食を抑制することは出来ない、等の結果が得られた。
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