この研究は、ネパールの歴史建築を代表するパタン王宮を例に、チョク建築を中心として王宮建築の設計モデュールを明らかにするものである。チョク建築の構造はマッラ王朝時代のム-ルチョクとスンダラ・チョクの例が最も典型的な形式であり、それらの建築の平面設計概念についてはすでに明らかにした。また、高さ方向の寸法計画の解明には、外壁のれんが割りと柱などに刻まれた木彫細部の寸法構成が重要であることも指摘した。昨年度は、パタン王宮の実測結果をもとにスンダラ・チョクについて検討したが、今年度はム-ル・チョクの柱寸法とれんが寸法に着目して、建物全体の断面寸法について検討している。さらに、発展したチョク建築の形式を示すマニ・ケシャブ・ナラヤン・チョクについて、平面寸法の解析を行なっている。結果は次の通りである。 ム-ル・チョクでは高さ方向の寸法計画においてもハート尺が用いられている。各階の断面寸法はれんが壁の高さが基準寸法となっており、その基準寸法は5.5ハートである。基準高さを同一寸法で重ねてゆく手法は、中庭四方の壁面においてもみられ、1・2階ともれんが段数をを合せている。また、壁高さ5.5ハートは1階壁の内法でもあることから、5.5ハートの正方形モデュールを2つ積み重ねる断面計画が読み取れる。 いっぽう、マニ・ケシャブ・ナラヤン・チョクの平面寸法においてもハート尺が用いられている。ム-ル・チョクの構造を受け継ぎ発展させたマッラ王朝末期建立の、この建築においても、基準寸法を7.5ハート前後に調節して基準格子を用いている。ネパール王宮の平面設計方法においては、基準格子の概念がこのように強く意識され、受け継がれている。
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