本研究の基礎をなす課題として先ず、建築空間の本質、その構造規定を精査し明確化しておく必要があった。このことに関しては既に基本的な研究を行い数編の論文に纏めて発表したが、その結果をもとに更に根本的にこの問題の研究を行った。建築空間の本質は空間の意味的分節の樹立ということであることを明らかにし、ユクスキュルの環境世界論に基づいて、それがハイデッガーによって解明された人間存在の構造-現存在の空間性に根ざしていることを論証した。更に、空間の意味的分節の樹立という建築空間の創造が、現存在の空間性に基づく世界投企による世界適応であり、世界像の象徴的実現であることを、主としてハイデッガーの所論に基づいて詳細な論証を行った。この成果を三編の論文に纏め拙著『建築の誕生(中央公論美術出版、平成七年刊)』の序論部分に収め、公表した。次いで、キリスト教の形成過程において、キリスト教神学の展開と教会堂の形成がどの様に関連しつつ行われたかを検討した。その結果、キリスト教神学に於ける空間観はユダヤ教のそれから出発し、その基礎的な構造は同じであるけれども、復活ということを中心にして、普遍的宗教、また個人救済宗教へ変化して行く過程において、その空間観がより終末論的なもの、彼岸的にになって行くことが明らかになった。またそのことが教会堂空間の構成に現れて来るが、それは既に二世紀のhouse-churchの構成にも現れており、キリスト教公認以後は、この終末論的な思考が教会堂空間に動的な要素を与え、無限を志向させて行くことを示した。また、東方では異なった思弁的な神学が展開され、その結果、神秘的な体験として神と合一することを目指す、感覚を重視した空間が構成された。
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