今年度の本研究は文献研究(密教の人間-自然共生システムの基本的構造の研究、密教的世界を必要とした意識構造の研究、自然と人間の関係を「自然の精神史」という観点から考察する)と、フィールドワーク(密教聖地等の場所的特性の調査)によって次のような新たな知見を得た。 1・人間-自然共生空間の構造を探るためには、「自然の精神史」という観点が必要である。 2・その観点から、人間-自然関係は、詩(記紀万葉)的意識表出段階、詩-物語(古今集)的意識表出段階、物語(源氏物語)的超自然の析出段階、対象的「自然」(明治20年代)の発見段階、ヴァーチュアルリアリティとしての自然の仮構段階に分けられる。 3・上記各段階のうち、平成6年度は特に詩-物語(古今集)的意識表出段階の空間と時間の構造とそのコスモロジーを詳細に明らかにした。 4・密教の人間-自然共生システムは、詩-物語(古今集)的意識表出段階以降の意識において、それらを補完するかたちで機能し、身体的変容過程を通じてのみ共生システムを実現するものである。 5・密教の人間-自然共生システムは、詩-物語(古今集)的意識表出段階以降の意識を変成し、詩(記紀万葉)的意識表出段階にある止揚を及ぼすことによって共生を実現するものである 本研究テーマは「自然の精神史」という、より広い視点の中に位置づけられなければならぬという意味で、研究のパラダイムを広げる必要があることが明かとなった。一方、密教の内的構造にはまだ深く考察が及んでいないので、次年度にはその点を充実させなければならない。
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