高い付加価値を有する有機化合物の効果的な合成には、均一系触媒反応が有力な手段である。新反応の開発の鍵として、金属のとりうる複数の酸化還元過程の触媒サイクルへの組み込みという独自の考えを導入し、従来の触媒では達成できない反応速度、反応選択性をもつ新しいヒドロシリル化反応の開発を検討した。触媒として、Rh(I)⇔Rh(III)⇔Rh(V)をとりうるロジウム錯体RhCl(PPh3)3を用いた。また、高原子価中間体を作りやすい有機ケイ素前駆体として、2つのSi-H基を炭素鎖でつないだ化合物に注目し、炭素鎖の長さ、構造、ケイ素上の他の置換基を変化させた一連の化合物を合成した。また、反応を支配する因子として、先にあげた触媒、複核ヒドロシランを変化させ、ケトン、オレフィン、アセチレンの各有機基質を用いて、系統的にその反応の結果を探ったところ、ある一定の距離内に2つのケイ素基があるシランが、通常のシランの反応と比較して、異常なほどの速い反応をおこすこと、および、1つのシリル基のみの反応で止る選択性を示した。とくに、ケトンのヒドロシリル化において、反応基質を細かく変化させてその全体像を明らかにした。この異常な加速効果と選択性は、これまでのヒドロシリル化にない現象であるため、反応中間体をスペクトル的に捕捉し、構造を解析した。これらを通じて、Rh(I)⇔Rh(III)⇔Rh(V)の酸化還元過程を含む触媒サイクルを提唱し、今後のヒドロシリル化を初めとした高原子価中間体を含む触媒反応の開発へ向けての基礎過程への重要な知見を得た。
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