研究概要 |
コゲラDendrocopos kizukiは、日本列島周辺の多様な面積や隔離度の海の島と緑地の島の両方に広く生息する。そのようなコゲラの個体群の関係を研究することによって、樹木と密接な関係を保ちながら生活しているキツツキの一種である本種から緑地・動物相の保護管理についても重要なヒントを得ようとしている。 秩父山地、伊豆諸島三宅島、南西諸島の奄美大島と沖縄島、東京都下の緑地などで定着個体がいる可能性の高い繁殖期にコゲラを捕獲し、各部(翼長、嘴長、ふ蹠長、尾長、体重など)を計測し、羽毛パターンを分析するために風切羽、腹面、背面などの写真を撮影した。DNA多型分析のための採血を行った。その結果、形態における本土と島嶼部で別々のクラインの存在が、現生個体についても示唆された。また、島嶼においては、伊豆諸島(三宅島)と南西諸島では翼の形が異なり、海洋島の個体群の起源の相違が示唆された。これらは、生態的要因と系統的要因を反映した個体群間変異だと推測される。DNA多型分析については、本種の属するDendrocopos属において、当初ターゲットとして考えていたCytochrome-bおよびD-loopの増幅が正常に行えなかったという報告および情報があり、マイクロサテライトやMHCなど他のターゲットを利用する可能性を含め、再検討中である。 今後、近緑種とされる、セグロコゲラ(D.canicapillus,東南アジア・ヒマラヤから東アジアに分布)、コアカゲラ(D.minor,東アジアからヨーロッパ、イングランド地方に分布)などの資料もコゲラと合わせて収集し、また、オオアカゲラ(D.leucotos)やオオトラツグミ(Zoothera dauma)など日本列島周辺に形質上特異な個体群が分布する種の系統を参照しながら、コゲラが日本列島周辺で共通の祖先種から種分化したという作業仮説の検証をこころみ、分布様式、遺伝子交流頻度、個体群内外の遺伝的多様性を基準に森林の種多様性の維持について考察をつづけたい。
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