研究概要 |
生物界で形態形成に関与するホメオドメインをもつ遺伝子、樹幹で発現量の高いレクチン遺伝子、心材形成に関与するスチルベン合成酵素遺伝子の3つを、木をかたちづくる遺伝子の候補として手始めに選んだ。ポプラとクロマツの樹幹からmRNAを抽出し、逆転写転写酵素によってcDNAを合成した。このcDNAを鋳型としてPCRによって目的遺伝子を増幅し、塩基配列の決定により確認することにした。(1)ホメオドメイン遺伝子の増幅では、アニーリング温度の低い条件で多数のPCR生成物が確認されたが、特異的な増幅はできなかった。(2)レクチン遺伝子では、PCR生成物は認められなかった。エンジュレクチンの塩基配列をもとにしたプライマーを用いたためと思われる。(3)クロマツからのcDNAでは、予想されるスチルベン合成酵素遺伝子の断片が電気泳動上で確認できた。この塩基配列決定が比較的安価にルーチンで行える方法を検討したが、予想以上にDNA試料を消費してしまった。 ここまでの問題点をまとめると、比較的安価に多数の長い塩基配列を決定するためには新たな方法論を確立する必要があり、またDNA量が十分準備されている必要のあることがわかった。そこで、cDNAの代わりにゲノムDNAを出発材料として再度実験を進めることにした。裸子植物・被子植物から合計11樹種のDNAをCTAB法で単離した。対象DNAとしてスチルベン合成酵素遺伝子を選びPCRを行った。PCR条件を詳細に検討し、目的遺伝子断片を特異的に増幅した。これを用いて塩基配列決定条件を検討した。DNAポリメラーゼは、T7系,Taq系を、標識方法は5'標識、内部標識をした。5'蛍光標識したカスタムプライマーを合成すれば、塩基配列が決定できることが証明できた。しかし、多量に長いDNAの塩基配列を決めるためには、逐一塩基配列決定用のカスタムプライマーを購入できない(不経済で時間もかかる)。また、内部標識法は、PCR用プライマーを流用できる反面、長い配列が読めない。今後の課題としてユニバーサルプライマーの付いた配列を効率よく目的DNA断片につなぐなどについて検討する必要がある。
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