伊東細胞はI型コラゲン_α1鎖等、種々の細胞外基質タンパク質を産生する。このタンパク質をコードするmRNAのレベルの変動を肝より分離直後の伊東細胞でのレベルを基準にして調べた。分離直後の伊東細胞はI型コラゲン_α1鎖mRNAを殆ど持っておらず、プラスチック基質上で培養すると48時間後頃から増加した。また、継代した伊東細胞からクローンを調製したが、この株細胞では、本mRNAのレベルは分離直後の伊東細胞のそれの約800倍高かった。この高いレベルも、伊東細胞を細胞外基質軟ゲルに埋め込むと時間と共に減少し、96時間以後では、株細胞での本来のレベルの3%以下に減少した。 この様に、細胞外基質との相互作用がこのmRNAのレベルの調節因子として重要であることが知られた。一方、ラットに経胃的に四塩化炭素を投与すると、やはり、このmRNAレベルが30倍くらい増加するが、この様な肝を使って調べると、この増加は、この蛋白をコードする転写の促進に依存しており、mRNAの分解速度は正常ラット肝でのそれと較べ全く変化がなかった。 ラットの個体レベルでの観察結果が培養伊東細胞でのこのmRNAの代謝回転と完全に同じ機構で調節されているかどうかは分からない。しかし、同一遺伝子の調節機構として考えれば、恐らくI型コラゲン_α1鎖mRNAのレベルの調節は、転写レベルで行われる可能性が示唆された。
|