伊東細胞は肝類洞周囲に局在しレチノイド貯蔵を担当する。しかし、アルコールなどによる肝障害時には貯蔵レチノイドを放出し、分裂増殖して細胞外基質を産生する筋線維芽細胞様の細胞に機能変化することが知られている。伊東細胞はコラゲナーゼ・プロナーゼ灌流で得たラット肝分散細胞をメトリザマイドの密度勾配で遠心し調製できる。ほぼ100%の純度でラット肝伊東細胞を含む8%メトリザマイド画分から伊東細胞のマーカー蛋白のデスミンを細胞質で発現している非腫瘍細胞を株化した。株化細胞はブラスチック基質上で約40時間の細胞周期で増殖し、高いI型コラーゲンα1鎖(α1(I))mRNAレベルを持つが、細胞内レチノイドの蛍光強度は分離直後の伊東細胞のそれの1%未満であった。これらの所見から本細胞は伊東細胞に由来し、筋線維芽細胞様の機能をもつ細胞であると推測された。伊東細胞の接着する基質が伊東細胞機能に与える影響を分離直後の伊東細胞、初代培養伊東細胞、株化細胞を使い、ノザン法によるα1(I) mRNAレベルを指標として調べた。分離直後の伊東細胞のα1(I) mRNAレベルを基準として比較すると、プラスチック基質上で48-96時間初代培養した伊東細胞は約40倍高いこのmRNAレベルを示した。プラスチック基質上の株化細胞のα1(I) mRNAレベルは基準より800倍以上高かったが、株化細胞の接着基質を基底膜の細胞外基質成分を含むマトリゲルに変えるとそのレベルは約40%に低下した。そして、マトリゲルと接着した株化細胞の細胞周期は約180時間に延長した。TGFβなどのサイトカインが伊東細胞の機能変化に働くとの報告があるが、本研究のこれらの結果は、伊東細胞の機能指標のα1(I)mRNAレベルや増殖速度の変化に細胞の接着基質が重要な役割を持つことを示唆する。この細胞接着で働く情報伝達因子の解明が、伊東細胞機能の調節機構を知る手掛かりになると考えられた。
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