研究概要 |
【目的】(1)われわれはヒト横紋筋肉腫(RMS)細胞が分化能を有すること,分化度の異なるRMS細胞では筋分化制御遺伝子であるMYOD1,Myogeninの発現が異なることを明らかにした。そこで、RMS細胞の分化による筋分化制御遺伝子の発現の推移を検討し,それがRMSの診断マーカーとなるだけでなく,RMS細胞の増殖や分化にどのように関わるかを検討した。(2)横紋筋肉腫(RMS),Ewing肉腫またはPrimitive Neuroectodermal Tumor(EWS/PNET),神経芽腫や悪性リンパ腫は,組織学的に互い酷似した未分化な形態をとっているため,鑑別診断が困難なことが多い。これまでにMyoDlおよびMyogen inがRMSに特異的に発現し,その診断と分化度の判定にに有用であることを明らかにした。また近年,胞巣型RMSやEWS/PNETにみられる腫瘍特異的な染色体転座の遺伝子配列が解明され,転座による遺伝子再構成から発現するキメラmRNAの解析が可能となった。そこで,Northern blot法による筋分化制御遺伝子の発現に加え,RT-PCR法による腫瘍特異的遺伝子転座によるキメラmRNAの発現を組み合わせて解析することで,診断困難な未分化肉腫をより確実に迅速に鑑別できるか検討した。【対象および方法】(1)ヒトRMS細胞株をdimethyl sulfoxide,レチノイン酸で分化誘導した際の筋分化制御遺伝子MyoDl,Myogeninの発現の推移をNorthern blot法で検討した。(2)免疫組織学的検索を含めたこれまでの病理学的検討では,RMSやEWS/PNETなどの未分化肉腫の識別が困難であった21例について解析した。Northern blot法で筋分化制御遺伝子MyoDlおよびMyogeninの発現を,RT-PCR法でEWS/PNETや胞巣型RMSにみられるキメラmRNAであるEWS-FLI1,EWS-ERGやPAX3-ALVの発現を検討した。【結果と考察】(1)dimethyl sulfoxideおよびレチノイン酸はRMS細胞に対し増殖抑制効果と形態学的,生化学的分化誘導効果を示した。しかしこの分化誘導により,筋分化制御遺伝子MyoDl,Myogeninの発現に明らかな変化はみられなかった。(2)21例のうち8例をMyoDlの発現によりRMSと,5例をEWS-FLI1の発現によりEWS/PNETと診断した。MyogeninおよびPAX3-ALVの発現はMyoDlの発現を認めた8例中のそれぞれ4例,2例に認めた。Northern blot法による解析は6日で,RT-PCR法による解析は3日で結果が得られた。したがって,この2種類の分子生物学的検討を行うことで,診断困難な未分化肉腫の中からRMSやEWS/PNETをより確実に迅速に鑑別診断できると思われた。しかし,これら分子生物学的検討によっても腫瘍起源の同定ができない症例もあり,さらなる分子生物学的マーカーが必要と思われた。今回,PAX3-ALVキメラmRNAの解析で既報のものと異なるキメラを検出しており,新たなマーカーとしての可能性が示唆された。
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