研究概要 |
今年度はらい並びに結核患者における抗β-glucuronidse binding protein(BGBP)抗体価の低迷の実態を明らかにした。つまり今回は健常人、各型のらい及び結核患者血清抗BGBP抗体価の平均値と標準偏差値を比較する事により抗体価とそれら疾患との関係の理解を得た。方法はpisum stativumから精製したBGBPをアルデヒドを介して固相化したアミノプレート、peroxidaseをlabelした抗人IgG山羊IgG、DAB発色の組合わせによるELISA法を用いて検討した。各例の測定結果はそれぞれ以前検索した健常人由来最高抗体価血清の示した吸光度に対する比で求めた。以上の結果各群の吸光度比は健常対照例に比し各型のらい並びに結核症では明らかに低かった。以上はBGBPを有するらい菌や結核菌の感作によってもらいや結核患者ではBGBP分子に対する免疫反応力が低迷している状態を明確に示したものであった。つまり上記患者では寄生体が産生した高分子の中からmacrophageがBGBPの部分を抗原として提示する機能かそれ以後の過程に大きな障害がある事を示したものである。以上はまた精製したBGBPを提示抗原とし、欠陥macrophageの機能代行を目指すワクチンが上記感染症を主体とする疾病に対する有効な対策方法である事を強く示唆した。これは我々が明らかにしてきた以下の3点に加えるべき知見である。それら3点とは(1)らい菌を始めとする多くの寄生体はその生体内増殖に際し宿主のβ-glucuronidseに対する結合蛋白質(β-glucuronidse binding protein: BGBP)を生成し、これの宿主の酵素を結合させて宿主の成分を代謝利用する事。(2)この分子はらい腫から分離され,その後継代培養されてきた抗酸菌HI-75やlegumeから精製出来、各精製分子は相互に免疫学的交叉反応性を示す事。(3)BGBPに対しては一部の健常者と同様にらい患者も血清中に抗体を有することである。一方実験的にはごく最近以下の事が分った。それは研究代表者等がらい腫から分離し20年間培養をつずけた抗酸菌HI-75が未だにnude mouseの末梢神経内に侵入し、らい腫の性格を保持した病変を短期間(約2カ月以内)に起す事を確認出来た。これはHI-75をhyaluronic acidと混ぜて上口から頬に注射する方法によって確認した。よってこの学会等への報告並びにワクチンによる病変の抑制、生体内および培養細菌の遺伝子の変異等の実験を組む事が遅れ馳せながら今年度中に開始出来る見とうしとなった。一方、昨年度(平成6年度)に提唱した菌の静脈内注射では神経病変の発症に極めて長期間(ほぼ1年間)かかり、しかも末梢神経内鞘への菌の侵入は稀にしか見られない事が分ったのでこの方法は棄却する事とした。以上から上記疾患での抗BGBP抗体価の低迷状態のワクチンによる解消と疾患克服への可能性を実験により確認し、一方,人の耐えうる免疫抗体価を健常人の最高抗抗体価とし、剖検例で患者生前の抗BGBP抗体価とBGBP沈着組織(動脈硬化症や慢性糸球体腎炎糸球体)障害の状態を比較検討することによりBGBPの安全な免疫方法を明らかに出来ると思われる。
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