平成6年度の研究において、in vitroにおける肝細胞への感染実験を行うためには大量のスポロゾイトが必要である事が判明した。そこで、本年度は蚊体内のオーシスト数を増加させる条件について検討した。現在までに、マラリア原虫の蚊への感染を阻害する要因としては、虫体に対する液性並びに細胞性免疫が知られている。一方、補体の影響については明らかにされていない。そこで、補体のオーシスト形成に及ぼす影響について検討した。血清の補体活性の最も強いDBA/1マウスと補体成分C5欠損マウスのDBA/2にPlasmodium yoeliiを感染させ、3日後にAnopheles stephensiに吸血させ、吸血後9日目に感染オーシスト数を算定した。血清補体活性の強いDBA/1マウスから吸血した蚊中腸のオーシスト数は6.0(中央値)であったが、一方C5欠損マウスのDBA/2から吸血した蚊は419.5と有意に増加していた。次にこの2種のマウスの違いが血清成分の相違のみによっているかどうかを確認するために、DBA/2マウスに熱非働化したDBA/1マウス血清又は新鮮DBA/1マウス血清をそれぞれ静脈内投与した後蚊に吸血させオーシスト形成に及ぼす影響を観察した。その結果、非働化血清投与群では投与前のオーシスト数397.0から投与後381.0と変化は認められなかった。一方、新鮮血清投与群では投与前のオーシスト数364.5から投与後33.0と有意に減少した。またDBA/2マウスにC5のみを静脈内投与したところ、投与前のオーシスト数505.0から投与後24.0と有意に減少した。以上の結果より、オーシスト形成は補体によって強く抑制されていることが明らかとなった。したがって、DBA/2マウスを用いればスポロゾイトを多量に回収することが可能と考えられた。
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