先ずマウス初代培養肝細胞へのスポロゾイトの感染を効率よく行わせるために、小スケールでのマウス肝細胞培養法を確立した。次に吸血後どの時期にスポロゾイトが多く回収できるかを検討した。腹部では感染12日目が、胸部と唾液腺では感染18日後が最多であった。また分離されたスポロゾイトの感染性をマウスに接種して確認したところ、感染14および16日目に唾液腺、胸部、腹部から分離されたスポロゾイトによって感染が成立した。しかし、in vitroで感染実験を行うためには多くのスポロゾイトが必要であるため、オーシスト数を増加させる条件について検討した。マラリヤ原虫の蚊への感染を阻害する要因としては、虫体に対する液性並びに細胞性免疫が知られている。一方、補体の影響については明らかにされていない。そこで、補体のオーシスト形成に及ぼす影響について検討した。血清の補体活性の最も強いDBA/1マウスと補体成分C5欠損マウスのDBA/2にPlasmodium yoeliiを感染させ、3日後にAnopheles stephensiに吸血させ、吸血後9日目に感染オーシスト数を算定した。血清補体活性の強いDBA/1マウスから吸血した蚊中腸のオーシスト数は6.0(中央値)であったが、一方C5欠損マウスのDBA/2から吸血した蚊は419.5と有意に増加していた。次にDBA/2マウスに熱非働化したDBA/1マウス血清又は新鮮DBA/1マウス血清をそれぞれ静脈内投与した後蚊に吸血させ、オーシスト形成に及ぼす影響を観察した。その結果、非働化血清投与群では投与前のオーシスト数397.0から投与後381.0と変化は認められなかった。一方、新鮮血清投与群では投与前のオーシスト数364.5から投与後33.0と有意に減少した。またDBA/2マウスにC5のみを静脈内投与したところ、投与前のオーシスト数505.0から投与後24.0と有意に減少した。以上の結果より、オーシスト形成は補体によって強く抑制されていることが明らかとなった。したがって、DBA/2マウスを用いればスポロゾイトを多量に回収することが可能と考えられた。
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