HLA-B35遺伝子導入トランスジェニックマウスに、シャガス病の病原原虫であるトリパノソーマクル-ジを感染させ、慢性感染状態で誘導されてくる、防御免疫能の中枢であるCD8陽性の細胞障害性T細胞を株化してそのT細胞株が認識するB35分子と結合した抗原ペプチドを同定することを目的として、2年計画の初年度の研究を行った。遂行したのは以下の事項である。 1.感染系の確立。T.cruzi Y strainのin vivoおよびin vitroの継代培養系を確立した。用いたY strain(長崎大より恵与)はC3H系マウスに対し強毒性を示し、マウスで継代中のトリポマスチゴ-ト10^3個の腹腔内投与で100%のマウスが1週から2週で原虫血症を起こし死亡した。従ってこの実験系は、防御免疫能の検定に適したものと考えられた。また、慢性感染マウス作製には、in vitro培養したエピマスチゴ-ト1-2x10^6個を腹腔内投与するのが最適であることも明かとなった。慢性感染の指標として、エピマスチゴ-ト抗原をコートしたラテックス凝集反応を用いる血中抗体測定法を確立した。 2.抗原ペプチドの作製。原虫感染細胞膜上のHLA-B35結合ペプチドを直接蛋白化学的に分離同定することは困難であると判断し、すでに感染細胞中で発現の確認されているシステインプロテアーゼ(クルジパイン)にターゲットを絞り、この分子の全アミノ酸配列から、HLA-B35分子の抗原結合モチーフに照合して8-9merのペプチド約30種を合成しまずin vitroで結合能を測定し、B35と親和性の強い約8種のペプチドを選びCD8T細胞の長期培養系の刺激抗原として培養を開始した。現在維持培養している各細胞株の機能について検討中である。
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