1.HLAトランスジェニックマウス(HLA-TG)を用いたクルーズトリパノソーマ症(TC)に対する防御免疫の解析 TCに対する防御免疫には実験マウスにおいてCD8陽性の細胞障害性T細胞が主要な免疫細胞として働くことが報告されている。そこで、ヒトのペプチドワクチン開発のための新しい手段として、HLA遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用い、CD8陽性T細胞を刺激するHLAと親和性のある抗原ペプチドの同定を試みた。選んだHLA-TGはHLA-B35の遺伝子をC3H/Heに導入したHLA-B35-TGである。ペプチドの検索は、ヒト細胞内感染型のアマスチゴ-トで高い発現が認められているシステインプロテアーゼ(CP)分子の全長のアミノ酸配列を基に行なった。この配列の中からHLA-B35の結合モチーフとして報告のある配列から8個から10個のペプチドを61種合成した。さらにHLA-B35トランスフェクタントに対する結合ペプチドの阻害活性を指標として各ペプチドのB35分子に対する親和性から5種のペプチドを刺激抗原とした。感染後2カ月のHLA-B35-TGマウスの脾細胞をin vitroでIL-2とペプチド下で刺激培養したが、2週から4週の長期培養をしても特異的な細胞障害性T細胞の活性は検出されなかった。この原因は、HLA-B35分子とこれらのペプチドの結合力が他の抗原で報告されている抗原ペプチドの結合力に比べ弱かったこと、CD8陽性T細胞の活性化のために必要なヒト由来のCD8分子が、この系には欠損していたことが考えられた。 2.ヒト宿主での主要抗原の同定および、感染型TCでのCP分子の種内変異の同定。上記1項の問題を解決するため、主要抗原分子の検索と抗原分子の種内変異を侵淫地で調査した。CP分子とほぼ同じ分子量の蛋白分子がT細胞抗原として分離され、中南米にはTCに5種の系統が存在することが明らかとなった。
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