研究概要 |
リンパ球のシグナル伝達機構に関与する新規チロシンホスファターゼ(PTP)遺伝子をクローニングする目的で、2年間に渡り研究を推進してきた。クローニングには、サブトラクションPCR法を用いた。最終的に、データベース(Gene Bank)での相同性検索の結果、新規PTP遺伝子と思われるPCR産物を2個(B9、J12)得ることができた。B9はマウスの胸腺腫細胞株(BW5147)から,J15はヒトTリンホ-マリンパ腫細胞株(Jurkat)からそれぞれ得られた。B9に関しては、研究期間中に他の研究者からヒトのホモローグが発表されたため、以後、J15を中心に研究を進めた。まず、J15 DNA断片をプローブとして、ヒト末梢血単核球由来のDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、最長約4kbのcDNAクローンが得られた。ノーザンブロッティングにおいて、約4kbのmRNAが認められたことから、このクローンは完全長である可能性が示唆された。このJ15cDNAクローンの構造解析を行った結果、(1)膜タンパクに共通な疎水性アミノ酸残基に富む膜貫通ドメインを有すること、(2)細胞内ドメインには2個のPTP相同領域が直列に並んでいること、(3)Jurkat由来のJ15では、細胞内ドメインの一部にアミノ酸の欠損があることなどが明らかとなった。以上のことから、J15が、膜型PTPであることは明らである。また、ノーザンブロッティングにおいて、約4kbのバンドとは別に約5kbのバンドも検出されていることから、このPTPには、アイソフォームが存在する可能性も示唆されている。また、J15の発現が非リンパ球系細胞の一部にも認められることから、J15はリンパ球特異的ではないとも明らかとなった。興味深いことに、Jurkat由来のJ15cDNAのPTP相同領域においてアミノ酸の欠損が認められているが、この欠損がPTP活性に対する影響があるのであれば、PTPが細胞の腫瘍化と何らかの関係がある可能性が考えられる。現在、J15のタンパクレベルでの解析を進めている。以上の結果は、現在投稿中であり、主要な学会で発表する予定にしている。
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