Helicobacter pylori(H.pylori)はグラム陰性桿菌で、人の胃内での感染が1983年に初めて報告されてから、H.pylori感染と各種病態との関連が検討され、これまでに、H.pylori感染は慢性萎縮性胃炎、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫など多様な疾患に関与していることが認められてきた。このH.pylori感染における疾患の多様性の要因として、H.pylori菌における多様性と宿主側の反応の多様性とが考えられる。我々はH.pylori感染に対する病態の違いを宿主側に求め、宿主の免疫遺伝学的違いがH.pylori感染に対する病態の違いに関与すると考えた。宿主側の免疫応答に重要な役割を担うクラスII HLAであるHLA-DQのタイピングとH.pylori感染との関係を検討したところ、HLA-DQAの対立遺伝子頻度はH.pylori感染の疾患多様性と関連が認められた。すなわち、対立遺伝子DQA1^*0102の頻度がH.pylori感染陰性健常者及び萎縮性胃炎を伴わないH.pylori感染陽性者において、高度の萎縮性胃炎を伴ったH.pylori感染陽性者及び萎縮性胃炎を背景とする分化型胃癌例に比べ有意に高いことが認められた。このことは、慢性胃炎が惹起され、それが持続することで萎縮性胃炎へと移行し、分化型胃癌の発生母地に向かうH.pylori感染における病態の一つに、宿主側免疫遺伝学的背景因子が関与していることが考えられ、HLA-DQA1遺伝子がこの背景因子に関与する遺伝子の一つであり、対立遺伝子DQA1^*0102は萎縮性胃炎への病態に抵抗性に作用し、対立遺伝子DQA1^*0102を持たないものはH.pylori感染における胃粘膜萎縮への危険因子と考えられた。沖縄県はH.pylori感染率は本州と比較し低く、また、H.pylori感染が認められても我々福井県の44.9に比べ、沖縄県16.3と2.75:1と大きく異なる。この両地域において遺伝的背景因子を比較検討したところ、沖縄県においても、同じ様にH.pylori感染陰性健常者及び萎縮性胃炎を伴わないH.pylori感染陽性者にDQA1^*0102の頻度が高度の萎縮性胃炎を伴うH.pylori感染陽性者に比べ有意に高いことが認められた。
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