これまでは大腸癌細胞株colo 201に検出される約3.5kbの異常転写産物の解析を行ない、本mRNAがイントロン15のほぼ中央部より、alternative promotorによって転写され、イントロン部分の75塩基(bp)が翻訳されるため、蛋白のN端に新たに25アミノ酸よりなる領域の生ずることを明らかにしてきた。 本年度は、イントロン16の中央部とエクソン17の5′端にプライマーを設定し、RT-PCR法にて本異常転写産物の消化器癌および造血器腫瘍細胞株における発現を検討した。その結果、検討した25細胞株中10株に274bpと198bpの2種類のPCR産物が得られ、共にc-kit cDNAとハイブリダイズした。2つのバンドの相対的発現レベルは細胞株によって異なっていた。消化器癌細胞株では、RT-PCRでバンドを認めた5株中4株が198bpを強く発現しているのに対し、造血器腫瘍ではバンドを認めた4株すべてが274bpを強く発現していた。そこでこの2種のPCR産物の塩基配列を決定したところ、274bpは当初予想したとおり、イントロン16の中央よりエクソン17の5′端までの配列であったが、198bpはイントロン16において新たに転写される75bpを欠いていた。 以上の結果から、colo201に見い出された異常転写産物は、RT-PCR法を用いると多くの細胞株に発現しており、さらにイントロン16の75bp領域がスプライスアウトされたmRNAの存在も明らかとなった。これらのmRNAによりコードされる蛋白は、正常c-kit蛋白の機能制御に何らかの役割を果していると推測される。
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