上皮細胞の生存におけるsubstratum(基質)との接着の必要性についてヒト新生児皮膚由来正常ケラチノサイトとヒト有棘細胞癌由来細胞(DjM-1)を用いて検討した。両細胞ともbovine pituitary extract(BPE)含有KGM培地を用いると血清なしでも培養底に接着して増殖する。しかし回転培養器中で72時間ほど浮遊状態にしておくと前者はその後培養皿に植え込んでも接着せず死滅した。一方、DJM-1は1週間の浮遊状態でも、その後培養皿に植え込むと増殖を開始した。ただ浮遊状態では増殖しなかった。ケラチノサイトのこのような非接着性はその主要な接着分子であるα_6β_4の喪失によるものと推定されたので検討したところ、浮遊状態でもα_6β_4を細胞表面から喪失していないことがわかった。またモノクローナル抗α_6β_4はケラチノサイトの培養底との接着を殆ど抑制しなかった。次に、これまで筆者が用いてきた成人ヒト皮膚(手術前サンプル)由来ケラチノサイトはBPEがないと底面に接着せず、従って増殖もしなかったのであるが、今回大量の細胞を得るべく購入した新生児ヒト皮膚由来ケラチノサイトは意外にもBPEなしでも増殖した。従ってBPEの主成分であるbFGFはケラチノサイトの増殖を促進するもののケラチノサイトの生存にとっての必須因子ではないことが明らかになった。そこでbFGFの研究はひとまず脇において、細胞接着分子と連動するfocal adhesion kinase(FAK)の研究を始めた。FAKの有無を蛍光抗体法で調べたところ、接着状態ではDJM-1は強陽性、正常ケラチノサイトは弱陽性、浮遊状態では両細胞とも陰性と思われた。しかし蛍光抗体法だけでは真に陰性かどうか判定が困難なため、現在ノーザンブロットで検討中である。
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