われわれは、位置固定化リパーゼを用いた酵素法により、純度95%の任意の脂肪酸組成のジグリセリドを生成し、これを液晶乳化法にて微細乳化することで、全く新しい脂肪経腸栄養素材としてのジグリセリドエマルションを開発した。 この新物質の病態生理学的有用性を、従来のトリグリセリドを含有する経腸栄養剤、あるいは、成分経腸栄養剤と、小腸広範囲切除モデルを用いて栄養学的ならびに形態学的に比較・検討した。 結果、 1)小腸の大部分が機能しないという過酷な消化・吸収状態においても、ジグリセリドは迅速に吸収され、体重変化、窒素平衡、血中rapid turnover protein、血中リポ蛋白分画において、従来の半消化態栄養剤と比較して栄養学的改善を認め、脂肪の消化を必要としない成分栄養剤とほぼ同等の栄養効果があった。 2)成分栄養剤では必ず発症する必須脂肪酸欠乏も回避でき、しかも、脂肪を大量投与しているにもかかわらず、脂肪性下痢も認めず、ジグリセリドは脂肪含有成分経腸の栄養素材として極めて有用であることが明らかになった。 3)ジグリセリドを経腸投与すると、投与早期からその成分であるグリセリンもまた効果的に供給できることも新たに判明した。 4)われわれの考案した脂肪粒子固定法を応用して、透過電子顕微鏡を用いてジグリセリド投与後の空腸を超微形態学的に検討した結果、投与10分後という極めて早期から、空腸上皮細胞内で活発な原始カイロミクロンの形成とリンパ管への輸送が認められ形態学的にもジグリセリドエマルションの消化・吸収に対する有用性が証明された。 これらの研究成果はジグリセリドを液晶乳化法で微細乳化したジグリセリドエマルションが、脂肪吸収障害を伴う外科的病態患者にも有用な優れた栄養素材となり得ることを示唆するものである。
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