Transforming growth factor beta1(TGF-b1)はmultifunctional polypeptideの一つで、さまざまな細胞の増殖・分化を調節するとともに細胞外matrix proteinの産生を調整している。われわれはクモ膜下出血時に髄液中に放出される血小板由来のTGF-b1の生理的役割を調べるためにhuman recombinant(hr)TGF-b1を生後10日のC57BL6マウスのクモ膜下腔内に注入してみた。その結果、マウスの脳室系はTGF-b1注入後3週以内に拡大しはじめ、マウスの体重は注入後6週で増加しなくなった。組織学的検討では著しい脳室拡大にもかかわらず各脳室出口に解剖学的な閉塞は認めなかった。電子顕微鏡による観察では、脳室上衣のcilliaの減少が見られた。これらの結果よりhr TGF-b1でマウスに交通性水頭症が誘導できることが証明された。 さらにTGF-b1がクモ膜下出血後に発生する交通性水頭症の発生に関与しているか否かを臨床的に調べるために24例のクモ膜下出血患者の髄液中TGF-b1濃度をELISA法にて經時的に測定した。またWestern blot法にて髄液中の活性型TGF-b1の有無を測定した。その結果、交通性水頭症と診断され脳室腹腔短絡術(VP shunt)が行われた11例のTGF-b1濃度の第12-14病日の平均値は1.11±0.09ng/mlで、同時期のVP shuntを行わなかった13例の平均値の0.56±0.22ng/mlに較べ有意に高かった。(p<0.01)またWestern blot解析を行った症例では髄液中に25kdのTGF-b1を確認した。以上よりクモ膜下出血後の髄液中のTGF-b1がクモ膜下出血後の交通性水頭症の発生に重要な役割をはたしていることが示唆された。
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