研究概要 |
肩峰下impingementに伴う腱内の生化学的環境の変化が腱変性を助長するとの仮説に基づき、平成7年度ではImpingement症候群手術例の棘上筋腱6ヶ(41-53歳:平均約47.9歳)における、また剖検棘上筋腱9ヶ(21-45歳:平均約37.1歳)の、前方、中央及び後方部の近、遠位部計6ヶ所で酸素分圧(PO_2)、一酸化窒素(NO)濃度を測定した。測定にはDigital PO_2モニタ(POG-203, Unique Medical社),NOモニタ(POG-203US, Unique Medical社)を用いた。さらに、臨床手術例ではlaser-Doppler Flowmetry (ALF21N, Advance社)にて血流量をも同調的に計測した。術中上腕骨90゚外転前後、acromioplasty施行前後、剖検例ではF. P. meterによる圧迫(133g/cm^2)前後のPO_2、NO値の変化を比較検討し、それらに対する腱内血流量の関与を推察した。 棘上筋腱の血流量は90゚外転位で低下後、上肢を下降させると早期に正常化した。PO_2は上肢下降直後から低下し、30分以上の低酸素状態に陥った。NOは外転直後に増加して約3.0μMに達したのち低下し、上肢を下降させると再度上昇した。しかし各測定点間のNO値に有意差は認められなかった。これらの結果は腱内の生化学的環境に対する肩峰下Impingementの影響を証明している反面、腱内の虚血・再灌流がいかにPO_2、NO値に影響しているのか、については明らかにできなかった。剖検腱内PO_2が臨床例と近似して圧迫除去直後から低下したことにより、腱内血流量変化とは関係のない、組織液拡散などによる低酸素発生機序が示唆されたものの、NCはほとんど検出できなかった。Acromioplasty施行後のPO_2がその施行前とは異なり上肢下降後も変化しなかったことで、その手術効果が腱内PO_2の維持に起因すると思われた。Acromioplasty前後のNOピーク値は平均約2.7μMで有意差はなかったが、電極法による測定値の信頼性は今後さらに検討を要すると思われた。
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