研究概要 |
除草剤パラコート(1,1'-dimethyl-4,4'-bipyridilium dichloride,MW=257)の人体に対する多臓器障害がクローズアップされ1974年Busらはミクロゾーム(分離小胞体)のNADPH-cytochrome c reductaseを主とする薬物代謝酵素系による酸素フリーラジカル毒性説を出し、最近まで一般に受け入れられてきた。しかし我々の一連の研究でパラコート投与動物の肺、肝等で小胞体の変化がなくミトコンドリアの破壊が認められることから、ミトコンドリア障害を重視した。我々はパラコート中毒機構に対し新たな学説を提唱するための萌芽的研究に取り組み、当該年度内に次の研究実績を得た。 1.ラット肝よりミトコンドリアを分離し、パラコート処理で生じるスーパーオキシドを電顕細胞化学的に検出し(特異的検出法の改良を行い)、その生成部位を明らかにした。NADH存在下にミトコンドリアはパラコートを還元し、酸素を吸収してスーパーオキシドを生成した。スーパーオキシドが不均化して生ずる過酸化水素を塩化セリウムで捕捉しセリウムパ-ハイドロキシドの沈殿を生じさせる方法により、パラコートはミトコンドリア外膜で酸素フリーラジカルを生じミトコンドリアを破壊することを明らかにした(松本、盛口、平井ら:日本電子顕微鏡学会第51回学術講演会、大阪、5月、1995年)。平成6年度購入のフィルムスキャナーを用いて、スライドにしたミトコンドリア電子顕微鏡像をコンピューターに取り込み画像解析した。 2.ラット肝ミトコンドリアからNADH:パラコート還元酵素の分離を試みDEAEクロマト、ゲルろ過、CMクロマトにより52kDのタンパクを得た。この酵素は単一のポリペプチドで、ロテノン耐性にNADH存在下にパラコートラジカルを生じスーパーオキシドを生成した(52nmolO_2/min/mg)。またポリアクリルアミドゲル中でNADH存在下にニトロブルーテトラゾリウムを還元した。同一のバンドはミトコンドリアにありミクロゾームにない。
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