研究概要 |
悪性腫瘍の発生および進展のメカニズムを解明する研究は種々の手法を用いて幅広く行われているが、微量元素との関わりについて検討した研究は比較的少ない。本研究では,組織内の微量元素を測定する新しい手法を用いて、(1)尿路性器の悪性腫瘍を有する臓器における腫瘍および腫瘍周囲の微量元素の分布とその腫瘍組織の悪性度・浸潤度などとの関連性について検討、および(2)浸潤性膀胱癌の治療(シスプラチンを用いた動注療法)において、その治療効果を予測する上での膀胱組織内白金濃度のモニタリングにおける全反射蛍光エックス線分析法(TRXRF法)の有用性に関する基礎的検討の二点について研究をすすめた。[結果](1)非破壊放射光蛍光X線分析法(SRXRF法)を用いて腎および前立腺病変における微量元素(Zn,Cu)の2次元イメージングを試みたところ、(a)従来の内因性微量元素の検出法である、AAS法やICP法では検討できなかった微量元素の2次元解析が可能であり、組織を破壊せずに複数の微量元素の局在および相対濃度を知ることが可能であった。(b)腎癌組織においては癌巣では亜鉛、銅ともその濃度は正常組織よりも底値を示した。(c)前立腺肥大症ではZn,Cuとも大きな肥大結節およびその中の分泌物に多く集積していた。(d)前立腺癌では従来よりZn、Cuとも濃度が低いとされていたが、限局した高分化の癌病巣においては周囲の前立腺組織よりも有意に高濃度に集積していた。低分化癌およびホルモン療法後の癌組織ではいずれの金属も分布濃度が低い傾向が認められた。(e)前立腺肥大結節、癌部位での微量元素の分布の違いから、これらの疾患と亜鉛、銅などとの関連性が示唆された。(2)TRXRF法を用いることにより従来法(AAS法)より微量な組織試料の白金濃度が測定可能かどうかを比較検討したところ、両者の測定値の間にr=0.79と強い相関性が認められた。また、AAS法による測定値の方が各群における測定値のばらつきが大きいことから、TRXRF法がAAS法よりも測定値の信頼性がより高いと思われた。以上の結果から、TRXRF法は、(a)試料に侵襲を加えない、(b)多元素を同時に測定できる、(c)同一試料を繰り返し測定可能、(d)微量の試料(TRXRF法は数mgに対してAAS法は約50mg)でより正確に測定可能といった利点を見いだすことができた。
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